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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)9937号 判決 1968年7月17日

原告 林よね(仮名) 外三名

被告 柾目利勝(仮名)

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの連帯負担とする。

本件について当裁判所が昭和四二年九月二七日にした強制執行停止決定はこれを取消す。

前項に限り仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が被告の訴外林武に対する八王子簡易裁判所昭和四〇年(イ)第四六号土地所有権移転登記手続請求等和解事件の和解調書に基き別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という)につき昭和四二年二月一七日、同年三月二四日、同年四月二四日および同年七月一四日にそれぞれなした強制執行はこれを許さない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、被告は林武に対する請求の趣旨記載和解調書に基き請求の趣旨記載の日にそれぞれ本件建物に対し明渡の強制執行に着手した。

二、右債務名義によると、「本件建物はいずれも林武の所有に属しているところ、これを同人が被告に所有権譲渡をしたこと、武は被告に対し各建物を昭和四〇年一二月末日限り明け渡す」旨の記載がある。

三、然しながら本件建物は林武の所有建物に属さず現にすくなくとも原告昌江、同寛、同学および林武の共有に属する。即ち、

(一)  本件建物はいずれももと林徳次の所有建物であつたことろ、同人が昭和三七年一月六日死亡し、同人の妻である原告よね、子である原告昌江、寛、学および訴外林武、同加山歌子、同杉本幸子の七名が相続し、その共有に属したものであるが、昭和三七年一二月一〇日右相続人らは本件建物を含む徳次の遺産につき遺産分割協議をし、同日付で遺産分割協議書が作成された。しかして右分割協議によると本件建物は林武がこれを取得するものとされた。然しながら、

1、右協議成立当時は原告昌江、同寛、同学はいずれも未成年者であり従つて民法第八二六条により右各原告らのため特別代理人の選任を家庭裁判所に求めるべきにかかわらず、これをなさず、原告学については訴外内田元治が、原告寛については訴外原直吉が、原告昌江については訴外西村豊が、ほしいままに特別代理人として右分割協議に参加し分割協議書にも特別代理人なる資格を用いている。右のようにして右分割協議は右各原告らにつき無権代理人によつてなされたものというべくすべて無効であり、そうでないとしてもすくなくとも右各原告らにつき無効(分割協議の一部無効)である。なお分割協議の結果加山歌子、杉本幸子、原告よねはいずれも本件建物を取得しないことを承認しているものである。従つて本件建物は現に原告昌江、同寛、同学、訴外林武四名の共有に属する。

2、右遺産分割の協議は武があらかじめ一方的に分割協議書なる文書を作成しておいて関係者に署名押印を求めたにすぎず、実質的協議はなされていないし、特別代理人として参加した者たちも何ら意見を述べていないのであつて、協議はたんに形式的なものであるから右分割協議は実質的に無効である。

(二)  林武は訴外金泰仙から四百万円融資をうけて返済に窮し、同人の強圧的請求に屈して本件即決和解をしたのであり、当時本件建物とこれが敷地についての借地権価格は約五千万円以上であつたことからすれば、同人は武の窮状につけこみ暴利をむさぼらんとしたものであつて公序良俗に反し本件和解は無効であるから、右和解により泰仙は所有権を取得し得ないから、同人から本件建物の所有移転登記をうけたとする被告は本件建物の所有者ではない。

四、よつて、前記債務名義にもとづき被告が本件建物に対し昭和四二年二月一七日、同年三月二四日、同年四月二四日および同年七月一四日に各なした明渡強制執行の排除を求めるため本訴に及んだ。と述べ、被告の主張を争う旨述べた。

被告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求め、答弁として、

一、請求原因一、二項の事実および三項のうち徳次が死亡し原告ら主張の七名が相続人であつたこと、本件建物が相続財産の一部であり原告ら主張の日全相続人らにおいて遺産分割協議をした結果本件建物は林武が取得するものとされたこと、右分割協議の際原告主張の内田、原、西村がそれぞれ各未成年者であつた原告学、寛、同昌江の各特別代理人として協議に参加したこと、右分割協議がなされこれが協議書が作成された当時右内田らは家庭裁判所から特別代理人としての選任がなされていなかつたことは認めるが、分割協議が無効の結果現に本件建物が原告ら主張の者らの共有に属することは否認し、その余の主張は争う。

二、林徳次の遺産の分割協議は昭和三七年一二月一〇日その相続人ら間においてなされ、当時未成年者であつた原告学、寛、昌江についてはそれぞれ内田元治、原直吉、西村豊が特別代理人として参加し、本件建物所有権は武が取得することなどの協議が成立したところ、その際右内田らについては家庭裁判所の特別代理人としての選任がなされていなかつたので従つて内田らは無権代理人であり、同人らの協議は無権代理行為であるところ、その後東京家庭裁判所に対し原告学らの特別代理人選任の申立をし(同裁判所昭和三七年(家)第一二七一五号ないし七号事件)、昭和三八年一月一四日同裁判所より「林徳次の遺産分割協議をするにつき原告学の特別代理人として内田元治を、原告寛の特別代理人として原直吉を、原告昌江の特別代理人として西村豊を各選任する」旨の審判がなされ、同審判は確定した。即ち無権代理人であつた右内田らがそれぞれ特別代理人として選任されたのである。従つて、(一)右選任審判の確定により右無権代理行為は当然遡及して有効となりもしくは(二)右選任審判確定後右各特別代理人は前記遺産分割の協議を追認したから民法第一一三条、第一一六条の趣旨に則り分割協議の時に遡及して有効となつた。しかして、右の追認の態様は(イ)昭和三八年八月二〇日頃武および原告よねから右分割協議に基いて本件建物等につき相続登記をなすにつき各右特別代理人らが同人らの印鑑証明書の交付を求められ、各特別代理人らは右分割協議に基く武の相続登記を承認して右分割協議を追認し、右内田は昭和三八年八月三〇日、西村は同年九月一七日、原は同年一〇月二三日それぞれ各自の印鑑証明書を武と原告よねに交付したのであり、もしくは(ロ)右のようにして武と原告よねから右分割協議に基き相続登記をするにつき各右特別代理人らの印鑑証明書が必要であるからとの理由でその交付方を求められ、これが申出を承諾して右のとおり各印鑑証明書を交付して本件建物を武の単独所有とする旨の登記をすることを承諾したのであるから、右事実は右分割協議に対する黙示の承諾にあたる。

よつて、本件建物は右分割協議により武の単独所有に属し、同人を相手方とし被告を申立人とする原告ら主張の和解事件において本件建物の所有権を取得した被告において現に所有権を有するのであつて、原告ら主張のような共有に属するものではない。と答えた。

原告訴訟代理人は乙号各証の成立を認め、被告訴訟代理人は乙第一号証の一ないし一三、同第二号証を提出し、証人原直吉、同西村豊、同内田元治の各証言を援用した。

理由

一、請求の原因一、二項の事実は当事者間に争がない。

二、そこで、原告らが被告のした本件強制執行を妨げるべき権利を有するかどうかにつき判断する。

(一)  本件遺産分割協議が、原告学、寛、昌江につき家庭裁判所の選任を得ない内田元治、原直吉、西村豊が特別代理人として参加してなされたものであるから無効であり、その結果本件建物は現に原告昌江、学、寛の共有に属するとの原告らの主張について。

一、原告ら主張事実のうち徳次が死亡し原告ら主張の七名が相続人であつたこと、本件建物が相続財産の一部であり原告ら主張の日全相続人らにおいて遺産分割協議をした結果本件建物は林武が取得するものとされたこと、右分割協議の際原告主張の内田元治、原直吉、西村豊がそれぞれ各未成年者であつた原告学、同寛、同昌江の各特別代理人として協議に参加したこと、然し右分割協議がなされこれが協議書が作成された当時は右内田らは家庭裁判所による特別代理人としての選任がなされていなかつたことは当事者間に争がない。

二、それであるから、被告も認めるとおり、右協議は当時未成年者たる原告学、寛、昌江らにつきいわゆる無権代理人によつてなされたものであり、右内田らの協議はいわゆる無権代理行為といわざるを得ない。

三、ところで、遺産分割協議につき未成年者のため特別代理人として協議に参加した者が、当時家庭裁判所の審判により選任されていないため、その者の行為がいわゆる無権代理行為とされる場合でも、その者が後に家庭裁判所の審判の結果当該未成年者のため特別代理人として選任されたときは、その後においてその選任された特別代理人の参加のもとに改めて分割協議をすることがなくても、選任された後その特別代理人において従前なした分割協議を追認した場合にはこれによつて右分割協議は当初に遡つて有効になると解するのが相当であり、この場合の追認とは黙示的になされた場合でも妨げないこというまでもない。

これを本件についてみると、当事者間に争いのない前記事実に成立に争いのない乙第一号証の一ないし一二、同第二号証、証人原直吉、同西村豊、同内田元治の各証言ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、「前記のように、前記内田元治、同原直吉、同西村豊は家庭裁判所から特別代理人としての選任を得ていなかつたため、原告よねが申立人となつて、徳次の遺産分割協議をなすについて原告学、寛、昌江の特別代理人選任の申立(受理事件番号は被告の主張のとおり)を東京家庭裁判所になし、同裁判所は右に対し昭和三八年一月一四日原告学につき内田元治、同寛につき原直吉、同昌江につき西村豊を各選任する旨の審判をし、同審判は確定したこと、したがつて本件分割協議の際右原告ら各未成年者につき特別代理人として参加した内田らが、それぞれ各代理せられた右原告らの特別代理人としてそれぞれ選任された次第となつたこと、しかしてその後本件分割協議の結果に基づき本件建物を武の単独所有として登記するに必要なものとして武から印鑑証明書の交付方を求められた右各特別代理人らは、右趣旨のもとに、右内田が昭和三八年八月三〇日付の右西村が同年九月一七日付の、右原が同年一〇月二三日付の各自己名義の印鑑証明書を各その頃武に交付したこと、武はこれを使用して本件建物につき自己への所有権移転登記ないし保存登記をしたこと」を認め得、これに反する証拠はない。

それであるから、右説示の理由により、昭和三七年一二月二〇日になされた本件遺産分割協議は、東京家庭裁判所の審判により選任された右各特別代理人が、各右の趣旨のもとに印鑑証明書を武に交付したことによる黙示の追認により、右日時に遡り、有効となつたものと解するのが相当である。

四、したがつて、すでにして右分割協議により本件建物は武の所有建物となつたのであつて、原告ら主張のような理由により現に原告ら主張の者の共有に属するものではないというのほかないから、結局この点に関する原告らの主張は肯定し難い。

(二)  本件分割協議が実質的に無効である、との原告らの主張について。

原告らの主張はたとえば分割協議に関する意思表示にかしがあるとしてその結果本件建物所有権が原告らにも属するとの主張であれば格別、そのような趣旨のものとは解し難く、却つて原告らの他の主張部分をも斟酌して考えれば、その述べるところは協議がなされた過程ないし結果に原告らの意見が十分とおらなかつたとの不満をいうにすぎないとの趣旨に理解され、そうとすればそのような事情は被告の本件執行を妨ぐべき事由とはならないというほかない。

(三)  金泰仙の行為が公序良俗に反するとの原告らの主張について。

その述べるところは武と金泰仙なるものとの間の法律行為の有効無効に関する主張に基き、本件建物について原告らが本件執行を妨ぐべき権利を有するとすべき本件異議事由とはなり得ないから、主張のような事由の有無を判断するものでもなく右主張を援用して本件執行の不許を肯定するに由ない。

三、右に述べたとおり、原告ら主張する異議事由は結局すべて認容し難く、本件執行の不許を求める本訴は理由ないものとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟第八九条、第九三条一項但書を、当裁判所が本件につきした強制執行停止決定の取消およびこれが仮執行宣言につき同法第五四九条第四項、第五四八条第一、二項を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 秋吉稔弘)

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